ネットで短歌 ~結果発表~
2017 年春 実施分
「若葉」または自由
1首 図書カード 5000円分
丸本 萌さん(22歳)大阪府
研究室閉めきった窓絵葉書の若葉をみつめほっと息つく
【選評】
実験のために、あるいは思索を深めるために、日常とはいろいろな意味で少し離れたところにある研究室。そんな閉じられた空間で日々研究に邁進する作者の、ひとときのバーチャル森林浴。絵葉書の若葉にほっと息をついた作者自身もまた、ひかりを浴びてつややかに成長する若葉のようです。爽やかな風を運んでくれる、この季節らしい素敵な歌ですね。
5首 図書カード 3000円分
石山真太郎さん(22歳)岡山県
ネクタイを結び始める我のあり庭の若葉に陽が射しはじむ
【選評】
就職活動、あるいは新社会人として特別な春を迎えた作者。緊張感が感性をも研ぎ澄ますのでしょう。庭の若葉に陽が射しはじめる瞬間を、丁寧にすくいとりました。人は、自分の気持ちに近いものに視線が向かうものです。ネクタイを結び始めた作者もまた、若葉のようにはつらつとしていることでしょう。
松岡拓司さん(46歳)埼玉県
雨あがり一足とびに来るひかり若葉よ夏へ尖りし影よ
【選評】
雨がさっとあがり、急に陽が射してくる。さっきまでの暗い空と打って変わった青空から、ひかりがあふれる。しずくの残る若葉の下には、くっきりとした影ができる。映画のワンシーンのような、鮮やかな場面を切り取った歌。「若葉よ夏へ尖りし影よ」の畳みかけるような詠嘆が効いています。
平井かよ子さん(19歳)東京都
馬鹿だなあ告白なんてしたらもうこの妄想は終わってしまう
【選評】
告白する前は、台本は自分の思い通りに書けるし修正もできますね。でも、告白したとたん、相手のセリフを妄想する楽しみはなくなり、思ってもみなかったセリフが飛び出すこともあるでしょう。それでも、一歩進むことが妄想より素敵だと気づいてしまったんですね。作者の「馬鹿だなあ」に、きゅんとくる歌。
碧井文果さん(58歳)福岡県
野で摘んだうす紫の花を問う君の残した植物図鑑
【選評】
名前はわからないけれど、美しくて可憐で、思わず摘んできた野の花。うす紫色の花びらを手掛かりに、植物図鑑で調べるのは結構大変です。でも、作者の植物図鑑は「君」が残してくれた、特別な図鑑なのですね。もしかすると、「君」と一緒に見たことのある花なのかもしれません。「時」を感じさせてくれる一首。
田中亜紀子さん(45歳)三重県
青空に誘われ歩く昼下がり若草若葉我も華やぐ
【選評】
一年で一番気持ちのいい春の昼下がり、青空ならお散歩に誘われている気分になりますね。下句の「わかくさ・わかば・われ」で「わ」の韻が3回踏まれ、同じく下句の14音中10個もの「A」音が使われており、作者の華やいだ気持ちがハッキリと伝わります。読み手の気持ちも華やいでくる一首です。
ご応募、誠にありがとうございました。
協力・選評 与謝野晶子倶楽部 運営委員 勺 禰子