ネットで短歌2018秋 ~結果発表~
2018 年秋実施分
「紅葉」または自由
1首 図書カード 5000円分
木村 由里亜 さん(42歳) 大阪府
縁なくてつなげなかった小さな手さざめきながら紅葉はもえる
【選評】
この世ではご縁に恵まれず、触れることのできなかった小さないのち。その手に想いをはせながら紅葉を見つめていると、赤い紅葉は幼いこどもが楽しそうにおしゃべりしているかのようにさざめき揺れて、作者の心をまた揺らします。内省が景色へ投影され、ひろがりをもって心に戻ってくる。小ぶりの紅葉を見るたびに思い出してしまいそうな、とても印象的な一首です。
5首 図書カード 3000円分
瀧澤 淳子 さん (55歳) 長野県
乗り慣れたトラックで行く紅葉狩りわれら夫婦も染まりてゆかな
【選評】
お仕事で使うトラックに乗って、今日向かうのは「紅葉狩り」。わたしたち夫婦もあの紅葉のようにあかく染まりに行きましょう。結句「ゆかな」の古語が効いて、万葉集に載っていたっておかしくないような(笑)雄大な歌いぶりです。春もまた、乗り慣れたトラックでお花見にでかけてくださいね。
掛川 あずさ さん (24歳) 東京都
秋風にさらわれそうな一枚をつかまえ愛しくなぞる君の手
【選評】
目の前の落ち葉が秋風に飛んでゆきそうになった。それを必死に拾ったのは、君の手に似ていたから。上句では「紅葉」の言葉を使わずにスピード感のある状況をうまく歌い、下句では一転、君の手に似ている紅葉をいとおしくなぞる場面に焦点を当てる。美しい映像を見ているような一首。
耳成 保一 さん(58歳) 鹿児島県
もう他に誰も居ぬはず影踏みに独り加わるゆふぐれ持ちて
【選評】
「影踏み」は数人の子どもたちがお互いの影を踏みあう鬼ごっこのひとつですが、この歌では「誰も居ぬはず」と他人の不在を確認しておいて、「独り加わる」というのです。ゆうぐれの自分の長い影を踏むのか、それとも一体…。残りの空想を読者に委ねる幻想的な歌です。
小澤 きぬゑ さん(96歳) 静岡県
決めかねる事のひとつを思いつつ紅葉の下をゆくりと歩く
【選評】
こころを占める考え事を抱えつつ、あるいは考え事があるからこそ、紅葉の下をゆっくり歩いてみる。決断を迫られながらも、客観的に自分を俯瞰する余裕を持った詠みぶりに好感を持ちました。選のあとに作者の年齢を拝見して、ますます素敵な、カッコイイ歌だと感じました。
大野 美津子 さん(65歳) 埼玉県
百年を経てなほ化粧の瓶の跡まるく残りし晶子の鏡台
【選評】
さかい利晶の杜の「与謝野晶子記念館」には、晶子遺愛の品がいろいろと展示されています。その中に洋風の大きな鏡台もありますが、この歌の「化粧の瓶の跡」までは気が付きませんでした。今はもうない化粧瓶の痕跡から、そこに生きて動いてお化粧をしてた晶子が立ち上がってきます。
野本 真吾 さん(29歳) 長野県
先生は嘘つきだけど鍵盤は僕の未熟を隠してくれない
渡辺 勇三 さん(75歳) 奈良県
ラウンジの脇に微笑みゐし友の逝きてそこのみ空席のあり
谷川 雅美 さん(39歳) 兵庫県
鎌持って背筋ただせば鼻先のツンと冷たく空を狩り込む
西村 由佳里 さん(42歳) 広島県
樹の先が紅く染まった遊歩道置いていかれぬように走った
堺 紀彦 さん(47歳) 滋賀県
ありふれた願ひのやうにひらひらと紅葉積もりて吾踏み破る
次回は12月1日(土) 9:00より、
テーマ「雪」または自由 で募集開始いたします。
多数のご応募、誠にありがとうございました。
協力・選評 与謝野晶子倶楽部 運営委員 勺 禰子